ある本との出会い

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

生ぬるい風がびゅうびゅうと吹いて、桜の花びらはあっという間に散ってしまった。でも春はまだいる。
アレルギーなのか風邪なのか、よくわからない調子で、場末のスナックのママみたいな声になっています。特に朝はひどい。
春眠暁を覚えず、とはよく言ったものだと思う。1日の始まりを告げる眩しい光の中で、しかしいつまでもまどろんでいたくなるような心地の良さ。夢と現実の狭間で浮いてるみたいな、春の朝にはそんな魔の時間があって、なかなか布団をえいやっとできない。
今まで気になりつつも、なぜか手をだせずにいたカズオ・イシグロの作品を、ついに一冊読了。
初めて「海辺のカフカ」を読んだ大学1年のとき。それ以来の衝撃が、全身を駆け巡った。
とても奇妙な物語。SFと言っていい設定ではあるのだけど、そこに生きる人々には、本物の血が流れている。彼らは互いを思いやり、時には傷つけ合いながら、わずかしかない時間を生き抜いていく。そのさまが、ひとつひとつのエピソードが、悲しく残酷であるにも関わらずなぜかひどく胸を打つ。いつまでもその世界に浸っていたいような気にさえさせてくれる。
不思議な話です。だけどとても真っ当な物語です。
村上春樹がこの作品を絶賛していたことがきっかけで読んだのだが、確かに村上さんが好きそうかもと思った。なんとなく、流れている空気というかそんなようなものが似ている気がした。
カズオイシグロ作品、これから色々読んでみたい。